愛隣幼稚園

お問い合わせ

愛隣だより☆10月巻頭言☆

大分教会員である野村新氏(元大分大学学長)の「子どもが生きられる世界」。30年前、野村氏が愛隣幼稚園での実践研究をまとめられた当園にとって貴重な書です。その最終章『「動くこと」から「動かす」ことへ』の項に、養護学校小学部のM君の事例が紹介されています。彼は重い「障害」があり、教師が手を引かなければ動かないどころか、手を離せば部屋の隅っこに逃げて行きます。入学の条件をクリアするため、親による苛酷な歩行訓練を強いられた辛い経験。発語もままならず、教師とのコミュニケーションも容易ではありません。しかし教師の試行錯誤の末、それまでの動かされる動きとは異なり、徐々に自分のリズムで動くようになっていく姿が描かれていきます。彼が音に反応することが分かってきた教師は、「チューリップ」の歌を頻繁に歌うようにすると、彼の唇が動きはじめ、微笑みの表情で、手を激しく振るほどの動きを見せるようになっていきます。当然その姿に親や周囲の者は賞賛の拍手を送りますが、それはかつて苛酷な歩行訓練を強いていた人たちの厳しい表情とは異なるものとして彼の中で受け止められ、彼は生まれて初めて世に認められる経験をしたのでした。また、絵かき遊びの時、頑なにクレヨンを拒否する彼に、教師がぐるぐる描きにした画用紙を指して、「蝶々が飛んでいるよ」と蝶々の真似をして歌いはじめたところ、彼は歌に合わせて蝶々を描きはじめ、更に花畑まで画用紙いっぱいに描いたというのです。それについて本書はこう記しています。「手が自分の意思で動かせるようになったM君は、線を引くということの意味がつかめるまでは、手を動かして線を引こうとはしていない。自分の引いている線の意味がM君の新しい世界と結びついたとき、線を引くという内容が深まり、人間行動の原動力となっていったのであろう」と。今月の主題は「動く」です。動くことから動かすことへどう繋げていくのか。決して使役的な意味で動かすのではなく、一段高い意味を引き出し、活動をより活発にしていく保育の重要さを再認識させられます。 (園長)